「こども食堂」開催で若い世代へ訴求
地域に信頼される病院に地域に信頼される病院に

栄養経営士の土屋輝幸（あきゆき）さんが勤める医療法人徳洲会武蔵野徳洲会病院（東京都西東京市）では、土屋さんを中心に2023年12月から「こども食堂」の取り組みが始められました。なぜ、病院でこども食堂なのか。４月の開催日にうかがい、その意図や当日の様子を取材しました。

全国でここにしかない「院内こども食堂」

医療法人徳洲会 武蔵野徳洲会病院 栄養管理室
土屋輝幸さん

病院内での「こども食堂」というのはなかなか聞かない話ですが、最初に開催を提案したのは、同院の桶川隆嗣院長だったといいます。地域から信頼を得て外来患者数を伸ばすには「若い世代にもっと病院に関心を持ってもらうことが必要だ」と考え、そのための活動の一環として決まったのが「こども食堂」でした。

桶川院長から「こども食堂」について一任された土屋さんでしたが、提案された当初はコロナ禍のため病院での開催が難しく、地域のNPO法人が主催している「こども食堂」に管理栄養士が出向いて栄養相談をする程度にとどまっていたといいます。その後、院内開催の体制が整い、2023年12月に初めての「むさとく　こども食堂」が開催されました。

開催は月1回、金曜の18時から45分ずつ2回転で、計60～70人が参加します。対象となるのは6～12歳の子どもとその保護者で、子どもは無料、保護者は一人百円で食事ができます。子どもにもおいしい、バランスの良い食事がとれるため毎回盛況で、受付開始前から列ができるほどです。

開催にあたって、土屋さんたちスタッフは当然、予約をとって不足もロスも出ないように準備をしようとしました。しかし、桶川院長から「予約制にはしない。ふらっときた人にも食べてもらえるようなものにしたい」との要望があり、当日来た人に食べてもらう方式になったそう。初回はどのくらい来てもらえるかまったくわからず、大変苦労したそうです。

「こども食堂」に来てくれた人は全員受け入れるよう工夫していますが、来てくれた方にお断りをしなければならない回も発生したといいます。

「告知活動としては病院での案内掲示とSNSでの紹介、あとは近隣の小学校にお知らせをするくらいです。他のNPOではここまでの集客に5、6年かかったと聞きますが、うちはロケットスタートですね」と土屋さんは笑顔で話してくれました。ちなみに、５月は過去最高の97人もの参加があったそうです。

自発的に集まったスタッフだけで食堂を運営

「むさとく　こども食堂」の当日の大まかな流れは以下の通りとなっています。

• 患者食（夕食）の準備終了後にこども食堂の調理を開始する
• 病院の一角（ロビー）の机とイスの配置を変え、簡易食堂にする
• 参加者の受付を開始、番号札を渡して人数をカウントし、取材ＯＫの人には専用のシールを貼ってもらう
• 時間になったら番号順に食堂に入ってごはんを取り、席について食事してもらう
• 食べ終わったら片付けて次の参加者のために消毒する
• すべての参加者が帰ったら、スタッフ全員でロビーを元に戻す

スタッフ全員が自主的にてきぱきと動くため、たとえば最後の片付けなどはものの10分ほどで終わってしまいます。傍から見ているとすばらしい連携で、皆さんよほど慣れていらっしゃるのかと思ってしまいますが、スタッフは毎回参加している人ばかりではないといいます。

「今日のスタッフは14人で、そのうち栄養管理室は４人。完全にボランティアです。院内の職員向けデジタルサイネージで『○月○日開催します、協力できる方はご連絡ください』と告知して声をかけてくれた人たちと、過去に参加してくれた人たちへの声掛けだけで行っています。ただ、みんな仕事が忙しいので、リピートで参加してくれている人は案外少ないんですよ」と土屋さん。忙しい人が多いものの、院内でこうした活動に積極的な職員が多いので、スタッフの人手で困ることはないそうです。

メニューについては、子どもの食の悩みについて保護者にアンケートを取り、たとえば「野菜を食べない」とあれば、その改善に役立つような食事を提供するように心がけているといいます。また、毎回60食以上となかなかの食数ではありますが、盛りつけしやすい献立構成にするなど調整しているそうです。

この日の調理を担当した調理師の福居祐也さんは「月に一度だけですし、子ども向けなので、盛り付けや見栄えにも気を配っています。患者さん向けではないため塩分や硬さなどは気にせず、子ども好みの味にしています。用意したものを全部食べてくれるとうれしいですね」と話し、「今後も続けて開催して『恒例の』と言われるようになって欲しい」と語ってくれました。

子どもへの貢献を胸にさらなる発展へ

病院の管理栄養士として活躍している土屋さんは、じつは栄養教諭の資格を持っており「何か子どもたちにも貢献したい」という思いがあったといいます。

「他のこども食堂との差別化を考えたとき、当院は管理栄養士が行っているというのが強みです。そこに食育などの観点を踏まえて、今後発展していけたらと思っています」（土屋さん）

また「こども食堂」では毎回アンケートを行っており、貴重な親子の「生の声」が集められています。土屋さんはこのデータを集計して、何か発表ができればと考えているそうだ。そのときはぜひ、栄養経営士の活動として「全国栄養経営士のつどい」でも発表していただきたいですね！　土屋さんと「むさとく　こども食堂」のこれからに期待しています！

　

【病院概要】

医療法人 徳洲会　武蔵野徳洲会病院

東京都西東京市向台町3-5-48

病床数：303床（一般253床・療養50床）

URL https://www.musatoku.com/

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