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NME REPORT ~栄養経営士活動報告 Vol.7
組織のコンセンサス獲得に重きを置き
実現した給食業務の委託化
開院当時から、直営による給食管理によって、こだわりの食事を提供してきた栄養経営士の鵜飼真千子さん(医療法人渓仁会手稲家庭医療クリニック)。しかし、管理栄養士の専門性が求められるなかで方針を転換し、組織の協力を得ながら、約2年かけて委託化を実現。委託化までの経緯と生まれた成果についてお聞きしました。
開院時からの方針を転換し、委託化に向けて始動
――給食業務の委託化にチャレンジしたとお聞きしましたが、そもそも直営による食事の患者満足度が高く、委託化には不安が大きかったそうですね。
当院では、終末期という入院患者の患者特性から、開院時より質が高くきめ細かな食事提供に力を入れて取り組んできました。患者さんの病態を知る管理栄養士が直接給食を管理することによって、献立や食材選択、調理の際の配慮が可能となり、喫食量や食事満足度が高まると考えてきたからです。厨房スタッフの人員確保が難しい昨今で、定着率を維持しながら直営給食を継続できていたのも、そうした満足度の高い食事提供が調理員の誇りと働きがいにつながっていたと思います。
当院は2009年に開院したのですが、私も立ち上げメンバーの1人で、開院にあたって私に与えられたのは「直営による給食管理で病院でもおいしい食事が提供できることを証明する」というミッションでした。背景として、当時は委託による病院給食の質の低さが問題視されていた事情があり、終末期の緩和医療を提供する当院においては直営で質の高い食事を管理する必要性があると考えられたからです。そのような経緯から、それを覆す委託による食事の質の維持は実現性が低いように思えました。
その一方で、当院では多職種協働のチーム医療を提供しており、管理栄養士としての専門業務も大切にしてきました。年間で約1300件の外来栄養指導を実施していたほか、入院患者の栄養管理に加え在宅訪問栄養指導も年々増加している状況で、並行して給食管理もこなすというのは、正直なところ時間的にも労力的にも負担が大きくなっていました。
――そこからどのようにして委託化を進めていったのでしょうか?
意識が変わったのは、管理栄養士が臨床業務においてより幅広く専門性を発揮することが期待されるなど、求められる役割が変化してきたことにあります。給食管理にかけられる時間がますます限られてくるなかで、それならば給食管理はプロに一任したほうが相互のためにもなるという思いも強くなっていきました。
当法人のなかで直営管理だったのは当院のみであったことや将来的な厨房の人員確保なども考えると、給食管理業務の委託化は避けられないと覚悟を固めました。18年5月から委託に向けて動きはじめ、納得いく体制を整えるために、約2年という十分な準備期間を設定しました。
目標に掲げたのは、「委託化しても質の高い食事を提供する」ことでした。また、既存の厨房スタッフが委託会社へ移籍することになれば、今までのような働きがいをどう維持するかも重要事項でした。そして何よりこれらを実現するためには、組織のコンセンサスを得ることが不可欠であると考えたのです。
当院は、手稲渓仁会医療センターと呼ばれる組織の一部として位置付けられているクリニックです。そのため、クリニック内のマネジメント層とセンターの経営層のコンセンサスを得る必要がありました。院長をはじめとしてクリニック内では「食事の質を担保することが大前提」という思いが一致、センター長もその思いを汲んで「食事の質は落とさない」と組織としての意思決定をして下さり、そのおかげで、各部署からバックアップを得ることができました。
明確なビジョンにより組織の協力が得られ、質を担保するための委託費も承認
――委託化によるメリットはどのように提示したのですか?
委託化を検討する会議では、過去3年分の収支実績と、委託後の業務計画から見込まれる収入の変化を提示しました。また、管理栄養士が得る収入に加え、委託化によって得られた時間で組織や地域のニーズにも応える活動ができることや、患者サービスの質向上を期待できるメリットもあわせて伝えました。
食事の質を担保するためには既存の献立や食材、厨房スタッフを継承する必要が生じ、一般的な委託費よりも約1.5倍の費用がかかることが想定されました。それでも、質の高い食事が患者さんに喜ばれていることや、管理栄養士の活動への理解、今後への期待から全面的なバックアップを得ることができたと考えています。
委託会社の選定については、国産中心の新鮮食材を使った手作りの食事提供といった当院のコンセプトを継続できる会社であることはもちろんでしたが、実は検討している最中の18年9月に北海道胆振東部地震を経験したことで、重要な委託条件の一つであった災害マネジメントへの対応についての優先度が高まりました。
その結果、本院と同じ委託会社と契約を結び、一つひとつの献立について食材やオペレーション調整を行いました。並行し、厨房スタッフには小まめな面談などコミュニケーションを大切にし、理解と協力が得られるよう働きかけていきました。決して順調な道のりではありませんでしたが、予定通り20年4月から、現在の献立と食材、調理員を継承した形での給食管理業務の委託化に切り替えることができました。
――実際に委託化がスタートして、どのような成果が生まれましたか?
結果として委託化しても食事満足度は80%以上を維持できており、食事の質は概ね保たれていると考えています。新型コロナウイルス感染症により外来患者数が減少して外来栄養指導が伸びなかった点を除いては、在宅訪問栄養指導の増加、特定保健指導やオンライン栄養指導の開始、すべての入院患者に対し栄養管理介入を行えるようになるなど管理栄養士の専門業務に集中できるようになりました。スタッフルームに席を置くようになったことで、チーム医療の実践も円滑になったと感じています。
――これからの展望を教えてください。
在宅訪問栄養指導については、一部の限られた患者さんにしか介入できておらず、課題となっています。低栄養が顕著な在宅患者さんにアプローチをするためには、多職種にもっと栄養管理の大切さを理解してもらえるよう、チーム医療の一員として貢献しなくてはならないと考えています。今後も患者さんに寄り添い「出会えてよかった」と思っていただけるような栄養ケアに取り組んでいきたいです。
【病院概要】
医療法人渓仁会 手稲家庭医療クリニック
北海道札幌市手稲区前田2条10丁目1-10
011-685-3920
URL https://www.keijinkai.com/teine-karinpa/
病床数:19床(一般)