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栄養経営士 活動報告

「こども食堂」開催で若い世代へ訴求
地域に信頼される病院に地域に信頼される病院に

土屋輝幸さん

医療法人徳洲会 武蔵野徳洲会病院 栄養管理室

土屋輝幸(あきゆき)さん


栄養経営士の土屋輝幸さんが勤める医療法人徳洲会武蔵野徳洲会病院(東京都西東京市)は2015年に開院し、診療科目24、病床数303床の「地域のかかりつけ病院」をめざす中核病院である。そんな武蔵野徳洲会病院で、土屋さんを中心に2023年12月から「こども食堂」の取り組みがはじめられた。なぜ、病院でこども食堂なのか。4月19日の開催日にうかがい、その意図や当日の様子を取材した。

全国でここにしかない「院内こども食堂」

病院内での「こども食堂」というのはなかなか聞かない話だが、最初に開催を提案したのは、同院の桶川隆嗣院長だったという。

地域から信頼を得て外来患者数を伸ばすには「若い世代にもっと病院に関心を持ってもらうことが必要だ」と考え、そのための活動の一環として決まったのが「こども食堂」だった。

桶川院長から「こども食堂」について一任された土屋さんだったが、提案された当初はコロナ禍のため病院での開催が難しく、地域のNPO法人が主催している「こども食堂」に管理栄養士が出向いて栄養相談をする程度にとどまっていたという。その後、院内開催の体制が整い、昨年12月に初めての「むさとく こども食堂」が開催された。

「むさとく こども食堂」の看板
手づくりで作成した「むさとく こども食堂」の看板

開催は月1回、金曜の18時から45分ずつ2回転で、計60~70人が参加する。対象となるのは6~12歳の子どもとその保護者で、子どもは無料で、保護者は一人百円で食事ができる。子どもにもおいしい、バランスの良い食事がとれるため毎回盛況で、受付開始前から列ができるほどだ。

開催にあたっては、土屋さんたちスタッフは当然、予約をとって不足もロスも出ないように準備をしようとした。しかし、桶川院長から「予約制にはしない。ふらっときた人にも食べてもらえるようなものにしたい」との要望があり、当日来た人に食べてもらう方式になった。初回はどのくらい来てもらえるかまったくわからず、大変苦労したそうだ。

配膳所になっているロビーの自販機コーナー
ロビーの自販機コーナーが配膳所になっている

「こども食堂」に来てくれた人は全員受け入れるよう工夫しているが、来てくれた方にお断りをしなければならない回も発生した。

「告知活動としては病院での案内掲示とSNSでの紹介、あとは近隣の小学校にお知らせをするくらいです。他のNPOではここまでの集客に5、6年かかったと聞きますが、うちはロケットスタートですね」と土屋さんは笑顔で話してくれた。

ちなみに、5月は過去最高の97人もの参加があったそうだ。


食事を取りに並ぶ家族
番号が呼ばれた家族から食事を持って席に着く

満席のことも食堂
あっという間に満席になったこども食堂

自発的に集まったスタッフだけで食堂を運営

「むさとく こども食堂」の当日の大まかな流れは、以下の通りである。

●患者食(夕食)の準備終了後にこども食堂の調理を開始する
      ↓
●病院の一角(ロビー)の机とイスの配置を変え、簡易食堂にする
      ↓
●参加者の受付を開始、番号札を渡して人数をカウントし、取材OKの人には専用のシールを貼ってもらう
      ↓
●時間になったら番号順に食堂に入ってごはんを取り、席について食事してもらう
      ↓
●食べ終わったら片付けて次の参加者のために消毒する
      ↓
●すべての参加者が帰ったら、スタッフ全員でロビーを元に戻す

スタッフ全員が自主的にてきぱきと動くため、たとえば最後の片付けなどはものの10分ほどで終わってしまう。傍から見ているとすばらしい連携だが、スタッフは毎回参加している人ばかりではないという。

元の状態に戻ったロビー
最後の家族が出て行ってから10分ほどで元のロビーへと戻った

「今日のスタッフは14人で、そのうち栄養管理室は4人。完全にボランティアです。院内の職員向けデジタルサイネージで『○月○日開催します、協力できる方はご連絡ください』と告知して声をかけてくれた人たちと、過去に参加してくれた人たちへの声掛けだけで行っています。ただ、みんな仕事が忙しいので、リピートで参加してくれている人は案外少ないんですよ」と土屋さん。忙しい人が多いものの、こうした活動に積極的な職員が多いので、スタッフの人手で困ることはないそうだ。

メニューについては、子どもの食の悩みについて保護者にアンケートを取り、たとえば「野菜を食べない」とあれば、その改善に役立つような食事を提供するように心がけているという。また、毎回60食以上となかなかの食数ではあるが、盛りつけしやすい献立構成にするなど調整しているそうだ。

この日の調理を担当した調理師の福居祐也さんは「月に一度だけですし、子ども向けなので、盛り付けや見栄えにも気を配っています。患者さん向けではないため塩分や硬さなどは気にせず、子ども好みの味にしています。用意したものを全部食べてくれるとうれしいですね」と話し、「今後も続けて開催して『恒例の』と言われるようになって欲しい」と語ってくれた。


こども食堂で食事をする親子
リピーターも多いが、なかには「今日初めて病院に来た」という親子も

子どもへの貢献を胸にさらなる発展へ

病院の管理栄養士として活躍している土屋さんは、じつは栄養教諭の資格を持っており「何か子どもたちにも貢献したい」という思いがあったという。

「他のこども食堂との差別化を考えたとき、当院は管理栄養士が行っているというのが強みです。そこに食育などの観点を踏まえて、今後発展していけたらと思っています」(土屋さん)

また「こども食堂」では毎回アンケートを行っており、貴重な親子の「生の声」が集められている。土屋さんはこのデータを集計して、何か発表ができればと考えているそうだ。そのときはぜひ、栄養経営士の活動として「全国栄養経営士のつどい」でも発表していただければと思う。

土屋さんと「むさとく こども食堂」のこれからに期待したい。

  6月のむさとく こども食堂は「お子様ランチ」
6月は満を持して「お子様ランチ」が登場