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血液検査の値で筋肉量を推定 吉田貞夫理事が特許を取得! | 2022年11月

当協会の吉田貞夫理事が血液検査の値(クレアチニンとシスタチンC)を使って骨格筋量を計算し、サルコペニアや低栄養を判定できる方法を開発、2022年6月に特許を取得した。そこで、吉田理事に仕組みを開発した背景や内容、今後の展開などをうかがった。

現場での問題を解決するために3年かけ開発

吉田理事

腎機能を見るとき、一般的には血液検査のクレアチニンの値で判断することが多い。しかし、クレアチニンは筋肉で作られるため、サルコペ二アが進行した症例では産生されるクレアチニンが減少し、実際の状態よりも腎機能が「良く出てしまう(過大評価してしまう)」ことが多い。受け持ちの患者さんの評価を行うときにも困っていたと吉田理事は語る。

「実際よりも良い数値で出てしまうと、慢性腎臓病の可能性の人が見落とされ、タンパク質の過剰摂取や、実際の腎機能以上に薬剤を投与し、副作用(有害反応)につながることがある。そこで、筋肉量(骨格筋量)の影響を受けず、正確に腎機能を評価する方法として、シスタチンCが用いられるようになってきている。シスタチンCは、細胞内でつくられる内因性のプロテアーゼ阻害物質で、骨格筋量の影響を受けにくい。実際に受け持ちの患者さんのデータを確認してみると、クレチニンから算出したeGFR(推算糸球体濾過量)とシスタチンCから算出したeGFRcysの乖離が認められた」

吉田理事はeGFRとeGFRcysの乖離は骨格筋量の減少が原因なので、「この2つの値の違いを利用することで、骨格筋量の推定を行うことができるのでは」と考えた。

近年、サルコペ二アの高齢者が増加、サルコペ二アの有無の判定が重要視されているほか、低栄養の国際的な診断基準GLIMでも、骨格筋量の評価が必要となっている。しかし、骨格筋量の測定は普及しておらず、サルコペニアの判定や低栄養の診断をする際にも、BIA(バイオインピーダンス)法やDXA(二重エックス線吸収)法などの機器がないために、正確な測定が行えない施設も少なくない。機器のない施設では、ふくらはぎの周囲長を測定することが推奨されているが、こうした状況は十年以上前からほとんど改善されていないのが現状である。

血液検査と基礎データで手軽に判定可能

今回、吉田理事が開発した方法では、クレアチニンとシスタチンCの値がわかれば、あとは身長、体重、年齢、性別といった基礎データだけですぐに骨格筋量が推定できる。「骨格筋量を測る際、BIA法では浮腫や腹水があると正しい数値にならず、ペースメーカーを留置している人には使用できないという難点がある。今回開発した方法では、そうした問題点を克服でき、同時に100人以上の多人数の測定も可能となるため、医療以外の検診、健診などでも応用できる」と吉田理事。

測定する項目

シスタチンCを追加で測定するためには、現在、数百円程度の費用が必要になる。しかし、シスタチンCを測定することで、正確な腎機能を評価でき、薬剤の過剰投与なども防ぐことができ、さらに、骨格筋量も推定できるとすれば、数百円のコストはそれほど高くはないのではないだろうか。今後、シスタチンCも一般的な検査項目として普及することで、より低コストで測定できるようになるといいのかもしれない。そうした将来をめざして「この方法の精度を上げて有用性を確立するため、今は1件でも多くのデータを集めている」(吉田理事)そうだ。

協力者を広く募集中 発表や研究にも活用を

現在、吉田理事は専用のサイトを立ち上げており、幅広く協同研究者を募集している。サイトには、病院・施設内での活用に向けた研究計画書のひな形、入力用データシート、患者さんへの説明用資料、結果報告用のフォームなど、必要な書類がすべて用意されている。そのため、今までこうした研究に協力したことがない人でもスムーズにデータ収集・研究・協力ができるだろう。

ホームページ

患者・利用者の正確な骨格筋量がわかれば、サルコペニアや低栄養の判定のほか、リハビリや食事内容の見直しなど、いろいろなところで活用できるはずだ。ぜひ、栄養経営士には吉田理事が開発した方法を業務に活かし、また吉田理事にデータをフィードバックして活動に協力して欲しい。

なお、次回の日本臨床栄養代謝学会(JSPEN)の演題募集は12月12日(月)までである。時間はあまりないが、この方法を使用して口演やポスターでの発表にトライしてはどうだろうか。もちろん、その場合には吉田理事も協会も協力は惜しまないので、興味がある方のチャレンジを期待したい。